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2025.07.31

生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界 夢二の人生に、ロマンを馳せて

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竹久夢二といえば、誰もが知る有名人。”大正浪漫” ”夢二式美人”など彼の代名詞は数あるけれど、果たしてその実像を捉えている人は、どれだけいるでしょうか?

この夏の『YUMEJI展』を前に、夢二の故郷・岡山を尋ねました。そこにあった彼の面影を、誌面を通じて皆さんにもお伝えし、展覧会をより深く楽しんでいただきたいと思います。

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『夢二生家記念館』

2019年にリニューアルオープン。展示室で作品に没入したり、椿や宵待草の咲く庭を眺めたり・・・夢二の少年時代にタイムスリップできる。

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『少年山荘』

アトリエは芸術家が通うサロンのような場所でもあった。

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夢二が過ごしたこども部屋。姉がお嫁に行くことに寂しさを感じ、窓枠に鏡文字で姉の名前を残している。

 澄みわたった青空の朝、竹久夢二の生家では、夜に花開いたマツヨイグサがまだ咲き誇り、来館者を歓迎していました。

 歌曲<宵待草>に歌われた、あの花です。こうして一歩足を踏み入れた瞬間から夢二の世界観に浸れるのが、岡山県瀬戸内市邑久町にある『夢二生家記念館・少年山荘』。数え年の16歳までここで暮らし、のちに画家、詩人、デザイナーなどとしてマルチに活躍することになる夢二のルーツが息づく場所です。その館内を、夢二郷土美術館の小嶋ひろみさんが案内してくれました。

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小嶋ひろみさん

「先の見えない今の時代にこそ、夢二的な優しい世界観が必要だと思います」と語る小嶋さんは、学芸員であり、夢二郷土美術館の館長代理を務めながら、創設者の松田基氏の孫として思いを引き継ぐ。

”夢二式”のルーツ

 

 当時のまま残された生家では、夢二の作品、著作本、夢二の言葉とともに生涯を伝える年表などが展示されており、彼に影響を与えたものの数々を故郷の原風景とともに知ることができます。

 例えば、正当な美術教育を受けていない夢二にとって、生涯唯一の先生と語っていたのが邑久高等小学校の服部杢三郎先生でした。「画家だった服部先生は、当時主流だった模写ではなくデッサンという新しい指導法を用いました」と小嶋さん。そのため夢二は、多くのスケッチを遺しているのです。また、彼のよき理解者であった母や姉の存在も大きく”夢二式美人”の原点になったと言われています。

 生家の入り口に大きく配され《童子》は、そんな幸せだった幼少時代を描いた作品。その柔らかなタッチから、当時まだ地位の低かった子どもや女性に、夢二が温かい眼差しを注いでいたことが伝わってきます。

 小嶋さんも「夢二の作品には、誰もがもっている郷愁の重いや人や植物を愛する気持ちが表れています。彼が暮らしを見つめ、大衆に共感していたからこそ描けたものであり、だからこそ多くの人々が夢二作品に共感できるのではないでしょうか」と、彼の人間的魅力を語ってくれました。

 夢二は上京後、転居を繰り返しました。しかし関東大震災を経験して価値観が変わり、初めて住居兼アトリエを構えます。それが『少年山荘』。今は残っていませんが、生家記念館の近くに復元されており、ここでも多くの写真や遺品から夢二の面影をたっぷりと感じることができるのです。

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『少年山荘』

夢二が自ら設計を手がけたという『少年山荘』は作品の一つとも言える。資料を参考に庭木までほぼ再現。300曲近く手がけた楽譜の装丁の一部も展示。

住所
岡山県瀬戸内市邑久町本庄2000-1
電話番号
0869-22-0622
時間
9:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
月曜日、年末年始、展示替期間
  • 月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日が休館
入館料
大人600円、中高大学生250円、小学生200円

生きて描きたかったものとは

 

 邑久町を後にして、岡山市内の『夢二郷土美術館』へ。こちらには、国内随一を誇る約3000点もの夢二作品が所蔵されています。

 その中から、生誕140年を記念して約180点を展示する今回の『YUMEJI展』。大分は九州唯一の開催地で、巡回展のクライマックスにもあたる注目の企画展です。その見どころを、小嶋さんにお伺いしました。

 「発見されて間もない名作《アマリリス》」や、病床で友人に託したスケッチ帖など、数多くの作品・資料を初公開するほか、遺品も展示予定です。夢二には先入観をもっている人が多いのですが、深く彼を知っていただくと、作品の見方・感じ方が変わってくるはず。ぜひ、皆さんそれぞれのお気に入りを見つけてください」

 夢二はジャンルを超えた多才な芸術家たちと交流する日々を送りながら、画壇に属さず自由な表現を追求しました。それが大正デモクラシーにマッチ。時代の寵児となってなお、晩年は世界を周遊してさらなる高みを目指しますが、志半ばで結核に倒れ、天国へと旅立ちました。

 そんな夢二の人生をも追体験することができる本展。もし彼が生き続けていたら、どんな作品を遺していたのでしょうか?

 そんな風にロマンを馳せながら、”新しい”竹久夢二に出会いに、ぜひお越しください。

 

 

文:冨松 智陽

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夢二生家記念館・少年山荘
ミュージアムショップ&カフェ<椿茶房>

生家の納屋を改造したミュージアムショップ&カフェ<椿茶房>では、夢二の復刻木版画やグッズを購入できるほか、生家や作品にちなんだ季節のお菓子を、岡山のお茶とともにいただける。

◆時間/9:00~16:00

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夢二郷土美術館

岡山県岡山市中区浜2丁目1-32

TEL 086-271-1000

◆時間/9:00~17:00(入館は16:30まで)

◆休館日/月曜日(※月曜日が祝日・振替休日の場合は翌日が休館)、年末年始、展示替期間

◆入館料/大人800円、中高大学生400円、小学生300円※特別展は異なる。

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お庭番頭の黑の助

2016年、夢二の命日頃に現れたという黑の助。夢二が描いたネコそっくりだったことから保護され、今ではお庭番頭を務めている。

information

会期
2025年7月6日(日)~8月17日(日)
会場
大分県立美術館 3F 展示室B
時間
10:00~19:00
  • 休展日なし
  • 金・土曜は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
観覧料
一般 1,400(1,200)円
大学・高校生 1,200(1,000)円
  • ()内は有料入場20名以上の団体料金。中学生以下は無料。大分県芸術文化友の会びびKOTOBUKI・TAKASAGO無料(2回まで)。障がい者保健福祉手帳等をご提示の方とその付添者(1名)は無料。学生の方は入場の際、学生証をご提示ください。
主催
生誕140年YUMEJI展大分実行委員会
特別協賛
ヤクシングループ
お問合せ
大分県立美術館(097-533-4500)

この記事は「びびNAVI vol.110」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。

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