OPAM
2026.05.08

《Wコレクション》の全貌が明らかに! それぞれの表現で時代に鋭く切り込んだ、愛すべき前衛アーティストたち

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ディープな芸術の世界に誘ってくれる、刺激的な展覧会がまもなく幕を開けます。展示作品数は約130点。そのすべてが、“あるコレクター”によって収集されたものだという、ちょっぴり謎めいた部分にも興味をそそられます。戦後の熱い時代を生きてきたW氏という人物らしいのですが、いずれにせよその審美眼が選りすぐったWコレクションは、草間彌生に奈良美智、具体美術協会に名を連ねたアーティストの作品まで一貫して“ヴァンガード!!”なものばかり。今回はその全貌が、なんと国内で初めて明らかになるという大注目の企画展なのです。

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草間彌生
《セクシャル・オブセッション(靴)》1997年
©YAYOI KUSAMA
画像転載不可

「セクシャル・オブセッション」は直訳すると「性的な強迫観念」という意味。草間彌生の作品に繰り返し現れるテーマのひとつであり、内面の不安や衝動と向き合う姿勢を感じさせます。

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河原温
《MAY 12, 1988》 1988年 《Today》(1966-2013)より
©One Million Years Foundation

1966年から約半世紀にわたり描き続けられた「デイト・ペインティング」の一点。このシリーズには、「その日のうちに描き始め、午前0時までに完成させなければならない」という厳格なルールがありました。

それぞれの表現で時代に鋭く切り込んだ、愛すべき前衛アーティストたち

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STANLEY WILLIAM HAYTER
《Cinq personnages》1946年

第二次世界大戦中、ニューヨークへ渡り制作した大作。ヘイターが自ら生み出した「一版多色刷り」技法による、生命力に満ちた表現が印象的です。

ヘイターという版画家 その作品にも 生きざまにも、惚れて

 

 そもそもW氏は、どうしてアートコレクターになったのでしょうか。その理由を紐解くと、ひとりの作家にたどりつきます。スタンリー・ウィリアム・ヘイターという、イギリス人の版画家です。
 ヘイターは、日本ではほとんど知られておらず、今回が「はじめまして」の方も多いはず。奔放に描かれた抽象的な作風と、作者自身のダンディなルックスを彷彿とさせるような、渋い色味が特徴です。
 彼はパリに〈アトリエ17〉という版画工房を創設しました。その最大の功績は、「一版多色刷り」という技法を開発したこと。化学の知識を応用しながら、1枚の銅板で同時に複数の色を刷るという画期的な方法を編み出したのです。けれども彼は、自分が有名になることには興味がありませんでした。それよりも工房のスタッフたちの名が売れるよう、またシャガールやミロ、ピカソのような著名人がここで新たな境地を拓けるように私財を投じ、サポートしたとか。誰もが自由に、ヘイターと対等に創作に打ち込んでいた〈アトリエ17〉は、まるでアートの楽しい実験室のようだったそうです。
 若い頃パリに留学していたW氏はある時、そんなヘイターと出会い、徐々に作品を購入していきました。作品そのものはもちろん、もしかすると、ヘイターの人間的魅力のほうにも強く惹かれたのかもしれません。そして彼の絵を買い続けるうち、W氏のもとには最初のアートコレクションができていったのです。

“具体”から草間彌生まで 魂を揺さぶる、前衛美術の数々

 

 すっかりアートの収集に目覚めたW氏は、日本の前衛アーティストの作品を精力的に購入するようになりました。例えば、あの鋭い目つきの片鱗が垣間見える、奈良美智の初期作品。印刷したかのような細かさで、数十年間も日付を描き続けた河原温の「デイト・ペインティング」。さらには、1950年代の関西でセンセーションを巻き起こした具体美術協会の作品の数々も展示されます。
 W氏についてもう少しご紹介すると、彼は“屈指の草間彌生コレクター”。代表作にとどまらず、初期のドローイングから近年の大型インスタレーションまで網羅されているのがWコレクションの醍醐味。今回はその中から約80点が展示される予定です。
 網目や水玉が代名詞ともいわれる、長野県松本市出身の草間彌生は、幼少期から幻覚や幻聴に悩まされ、その体験をもとに創作を始めました。戦後に京都の美術学校で日本画を学んだのち、いったん帰郷。地元・松本で開いた初の個展を足がかりに、東京、そしてニューヨークへと羽ばたきます。1957年の渡米後は、世界を舞台に「ネット・ペインティング」やソフト・スカルプチュアなどを発表。ベトナム反戦運動に乗じて裸の男女に水玉をボディペインティングしたことも。1973年に帰国し東京に拠点を移すと、小説家として才能を発揮したり、コラージュ作品を発表したりと多様な活動を行います。そして国際的な活躍により、アート愛好家のみならず多くの人々が草間彌生の作品、その存在自体に魅了されていったのです。
 …と、ざっくり振り返っただけでもめくるめく彼女の半生。それを年代ごとに追体験できるWコレクションは、2024年に台湾の北師美術館でも展示されました。
 草間彌生といえば、とりわけその稀有な才能と華々しい活躍が取り沙汰されがちですが、W氏の心を掴んだのは、むしろ彼女が苦悩の渦中にあった時期の作品だそうです。「自分の心を自分で恐れているような、自信のなさそうな寂しい風情のドローイングに特に心を惹かれた」とは、過去の展覧会に寄せられたW氏の言葉。きっと草間作品を「何度も観てきた」というファンにとっても、まだ見ぬ彼女の一面に触れられる、貴重な機会になるはずです。

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奈良美智
《Untitled》 1989年
©Yoshitomo Nara

私たちがよく知る「挑戦的な瞳」の少女が誕生する前、若き日の奈良美智による作品です。口からあふれ出すかたちは、言葉になる前の衝動や感情を思わせます。

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草間彌生
《かぼちゃ》 1990年
©YAYOI KUSAMA
画像転載不可

今や世界中で愛される草間彌生の「かぼちゃ」。幼少期より親しみを抱き、精神的な支えとしてきた特別なモチーフです。どっしりとした佇まいを埋め尽くすドットの集積には、どこか切実な感情を感じさせます。

ラブ! ヴァンガード!! 尽きることのない アートの力を

 

 今回展示される作品はどれも、めいっぱい表現しようとするエネルギーにあふれ、見るものの魂を揺さぶってきます。照りつける夏の太陽にも負けない作家たちの情熱を浴びたら、何かを表現したくなるかも。あるいはW氏のように、アートコレクターとして一歩を踏み出したくなるかも。そんなアートの力を感じつつ、純粋に鑑賞をお楽しみください。
 ところで、まだ謎の多いW氏ですが、展覧会の初日に来県し、自ら展示をご案内くださる予定。ご本人に会ってみたい方は、関連イベントのオープニングツアーもどうぞお見逃しなく。ぜひ、収集の熱意にも触れていただきたいと思います。

 

文:冨松 智陽

information

開催期間
2026年6月13日(土)~8月16日(日)
会場
3F 展示室 B

この記事は「びびNAVI vol.115」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。

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