センター
2025.07.01

子どもも一緒に楽しめる演劇作品「めにみえない みみにしたい」

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舞台に座ったその瞬間からはじまる物語

 

 客席は、舞台の上に敷かれた芝生の上。そこは、本来なら役者が立っている“あちら側”。観客と舞台の境界が溶け合い、物語と一緒に時間が流れ始めるような感覚に包まれる。それは、どこか非日常的で、何かが始まる予感に満ちている。
 そんな空間で上演されるのが── 今、演劇界でもっとも注目を集める演劇作家・藤田貴大(マームとジプシー主宰)が手掛けた、子どもも一緒に楽しめる舞台『めにみえない みみにしたい』だ。
 主人公はおねしょに悩む女の子。飼い猫から言い伝えを聞き、夜の森へ出かける。そこで出会った少女とともに森の奥へと進むと、不思議な生き物たちや古いおうち、隣の森との戦争の気配…。そして、たどりついた先で目にしたのは──。
 
「見えないもの」を魅せる藤田貴大の演出

 

 藤田の演出は、“リフレイン”と呼ばれる言葉や動きの繰り返しが特徴。同じ言葉が少しずつ響きを変えながら現れ、観客の心にリズムを刻む。その緻密な構成が、観る者の想像力をそっと引き出してくれる。
 「子どもと大人が居やすい空間をつくるには、デザインだけじゃなく、気配りも大事」と語る藤田。その演出は、風や気配といった“見えないもの”を照明や音、動きで立ち上げ、しりとりやじゃんけんなど、さまざまな遊びの要素を交えながら、観客の想像力と物語が自然に繋がっていく。
 観客が参加する場面もあり、気づけば物語の一部をともに創っているような感覚に。見るだけでは味わえない、参加することで深まる楽しさがそこにある。

 

細部まで光る衣装と音楽

 

 藤田の作品には、視覚や聴覚にとどまらず、感覚全体をそっと揺り動かす力が宿っている。その一端を担うのが、衣装と音楽だ。
 衣装を手がけるのはファッションデザイナーのスズキタカユキ。観客との距離が近いこの舞台では、衣装の質感が鮮明に伝わり、登場人物の気配が際立つ。
 音楽はクラムボンの原田郁子。やわらかな旋律が空気をやさしく変化させ、観客の心に寄り添う。言葉と音のあいだに余韻を残し、登場人物の気持ちがより伝わってくる舞台の世界が、観客の中でふくらんでいくようだ。
 
 藤田は、「自分たちがこだわってきた表現や、“かっこいい”と思うものを、どう子どもたちに届けるかを意識しつつ、大人にも響くような空間作り」を目指し、視覚的にも聴覚的にも豊かな世界を作り上げている。その世界に足を踏み入れたとき、観客たちはどんな時間を過ごすのだろうか。どんな思いが心に残るだろうか──。
 この夏、舞台という森で、“今ここにしかない特別な時間”を大人も子どもも一緒に楽しんでほしい。

information

日時
2025年8月19日(火)
午前 開場11:10/開演11:30(終演予定 12:40)
午後 開場14:40/開演15:00(終演予定 16:10)
会場
iichiko グランシアタ(舞台上)
料金
子ども(2歳〜未就学児) 1,000円
U25割(小学生〜25歳)2,000円
大人(26歳以上)3,000円
お問合せ
iichiko総合文化センター[(公財)大分県芸術文化スポーツ振興財団(097-533-4004)
企画制作
公益財団法人埼玉県芸術文化振興財団、合同会社マームとジプシー

この記事は「びびNAVI vol.110」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。

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