演奏家が語る、すぎやまこういちと『ドラゴンクエスト』の音楽 音の宇宙に導かれて
ドラゴンクエストの音楽を愛する皆さまへ
九州交響楽団が紡ぐドラクエの世界 まもなく大分へ

東京フィルのレジデント・コンダクターや広島交響楽団の正指揮者を歴任。N響をはじめ国内主要オーケストラに客演し、新国立劇場ではオペラやバレエも指揮。サンクトペテルブルク響への客演など国際的にも活躍。ピアニストとしても8歳で東京フィルと共演し、弾き振りのプログラムも行うなど多才ぶりが高く評価されている。

1953年創立。九州の音楽界をリードするプロオーケストラとして、アクロス福岡での定期演奏会をはじめ、天神での自主公演、青少年向けやファミリー向けのコンサート、オペラ・バレエ・合唱との共演など、年間約150回の演奏活動を九州各地で展開。2024年4月より首席指揮者に太田弦、ミュージック・アドバイザーに篠崎史紀が就任。これまでに福岡市文化賞、西日本文化賞、文部大臣地域文化功労賞、福岡県文化賞を受賞。
演奏家が語る、すぎやまこういちと『ドラゴンクエスト』の音楽
音の宇宙に導かれて
神が降りてきたかのような、名旋律の数々…
長年すぎやまこういち氏の音楽に触れてきた演奏家の一人として、心からの敬意を込めて――
九州交響楽団による本公演に寄せ、その魅力を改めて言葉にしてみたいと思います。

東京都交響楽団 首席トランペット奏者。洗足学園音楽大学客員教授など教育者としても活躍。国内外の音楽祭や演奏会に多数出演。
ドラゴンクエストの音楽その最大の魅力…
それは聴いた瞬間から誰もが心に自然と溶け込み、初めて耳にする人においても何故か懐かしさを感じたり、親しみを感じたりするところだと思います。
ドラゴンクエストの音楽に限らず、すぎやまこういち先生の作品は、つい口ずさみたくなるような曲やフレーズが数多くあります。それだけ印象的であるのも事実ですが、誰もが自然に覚えてしまうほど親しみやすく、愛されるメロディーだからこそ、広く記憶に残るのでしょう。
先生は数々の名旋律を生み出し、ご自身の作品を「松・竹・梅」でランク付けされていましたが、特にお気に入りの「松」は大抵「スッと降りてきた」とおっしゃっていました。色々とこねくり回して作曲した曲より、パッと浮かんだ曲の方が良い曲になったそうです。
もちろん、豊富な人生経験や多くの偉人作曲家から学ばれた知識などが大前提ではありますが、先生はもしかすると、神から選ばれし優れた人間のみが体現できる宇宙との交信があったのでは?と僕は思ってしまいます。
ファンタジーの世界観を支えるクラシカルな構築美
ドラゴンクエストは中世の騎士物語のような世界観ということで、それに見合った音楽として、すぎやま先生は基本的にはクラシック音楽のスタイルで作曲されました。王宮ではバロック風の宮廷音楽、教会では荘厳な讃美歌、村では素朴な牧歌、航海には優雅なワルツ、勇者の旅立ちには勇ましいマーチといった具合に、シーンに合わせた様式で作曲されています。
そして、そのシーンの空気感を表現するために和音にも物凄く拘りが感じられます。ストーリーが進むにつれ登場する困難。その不穏な雰囲気を描く場面では、まるで難解な方程式のような複雑な不協和音が効果的に使われ、緊張感を生み出しています。
偉大な作曲家に学び自らの音楽へ
すぎやま先生は幼い頃からバッハ、ベートーヴェン、ブラームス、ワーグナー、バルトーク、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなどなど、数多くのクラシック音楽をオーケストラスコアを見ながら聴き、独学で作曲を学ばれました。
その偉人たちの作風、作曲の癖や特徴などが膨大な知識として頭の中にあり、それらをベースとして優れた発想力と稀に見る才能によって、ドラゴンクエストシリーズのストーリー内で繰り広げられる壮大なファンタジーのために、500曲以上の異なる作品を生み出されたのです。
時を越えて心に響くメロディ
クラシック音楽が数百年という時を経ても聴き減りすることなく、現代を生きる我々にとってもかけがえのないものであるように、ドラゴンクエストの音楽もまた、プレイ中に何百時間聴いても決して聴き飽きることがありません。
むしろその音楽によって心はゲームの世界に深く引き込まれ、それぞれの曲がストーリーやシーンにもドンピシャとハマり、涙が出るほど感動も激増します。
ゲームをプレイした方なら、きっと誰もがこのような体験をしているのではないでしょうか。
さらに特筆すべきは、ドラゴンクエストの音楽は、ゲームをプレイしたことのない方々にも感動を与える力を持っている点です。
誰もが心に自然と溶け込み、理解など必要なく直接DNAに届く。だからなぜか懐かしさを感じたり、親しみも覚える。ドラゴンクエストの音楽にはそのような力があり、それが長年にわたり愛され続けている最大の理由のひとつではないかと思います。
“頭の中のオーケストラ”から生まれた音楽の物語
作曲にあたって、すぎやま先生はクラシック音楽のスタイルを想定し、頭の中ではフルオーケストラのサウンドをイメージしながら作曲されていました。多くの作曲家がピアノを使って和声を確認しながら作曲するのに対し、すぎやま先生はピアノを演奏されません。どんなに複雑な不協和音であっても、頭の中でその音が鳴っていたという驚異的な才能をお持ちだったのです。
ファミコン用ソフトとして『ドラゴンクエスト』が登場したのは今から39年前。当時使用できる音のチャンネルはわずか3つだけ。
そのため、頭の中に鳴っていた壮大なフルスコアを、3重奏にリダクション(再構成)してゲームにのせたそうです。つまり、オーケストラによる演奏は、すぎやま先生の頭の中で響いていた“本来のサウンド”を具現化したものと言えるでしょう。
今回演奏される「ドラゴンクエストⅢ」もそのファミコン時代の作品です。すぎやまこういち先生の宇宙へとつながる壮大な音楽世界への旅…。
そして“音の伝説”へ…ぜひ心を委ねてみてください。
information
(全席指定)
- 未就学児入場不可
公益財団法人 大分県芸術文化スポーツ振興財団(097-533-4004)
この記事は「びびNAVI vol.111」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。
