OPAM
2025.12.19

OPAMに腐海、現わる その「怖さ」の先にあるもの 「金曜ロードショーとジブリ展」

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©Studio Ghibli

いよいよ開催が近づいてきた『金曜ロードショーとジブリ展』で、大きな見どころと言えるのが造形作家・竹谷隆之さんによる「風の谷のナウシカ王蟲の世界」です。その制作プロセスや、作品に込めた思いをご本人にインタビューしました。

 

文:冨松 智陽

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竹谷 隆之
造形作家

1963年、北海道で漁師の家に生まれる。阿佐ヶ谷美術専門学校でグラフィックデザインを専攻。小林誠のアシスタントを経て、造形作家として独立。雨宮慶太作品に数多く参加しているほか、映画『シン・ゴジラ』などの雛形を制作。「タケヤ式自在置物」をはじめとする玩具、フィギュアでも見せるその卓越した造形力と独自の解釈で描かれるデザイン力が国内外で高く評価されている。著書に『腐海創造 写真で見る造形プロセス』『竹谷隆之作品集 漁師の角度』などがある。

そもそもは「ジブリファン」

ー竹谷さんにとって、金曜ロードショーやジブリ作品といえばどんな思い出がありますか? 

 

 金曜ロードショーが始まったのは学生の頃。僕はけっこうなインドア派で、かといってビデオは持っていませんでしたから、映画はテレビで観ることが多かったですね。月刊『アニメージュ』で『風の谷のナウシカ』の連載が始まったのも学生時代で、金曜ロードショーではジブリ作品が度々放映されていたので、両方ともすごく楽しみにしていたんです。 

 ナウシカには、連載初回から衝撃を受けました。絵面はもちろん、菌類が覆って人類が少ししかいなくなった世界があり、その理由がほのめかされていて…僕は人間がピラミッドの頂点ではないSF的な設定が大好きなものですから、すごくその世界観に引き込まれていきました。 

 

ーもともとファンだったんですね。そんなジブリ作品と仕事で関わることになったきっかけは何だったのでしょうか? 

 

 『巨神兵東京に現わる』(2012年)という特撮短編映画で樋口真嗣さんと庵野秀明さんにお声がけいただき、巨神兵の雛形をつくらせていただいたのがきっかけです。そのとき知り合ったスタジオジブリの担当の方と、「蟲や腐海をテーマに何かやりたいですね」と冗談っぽく話していたら、ありがたいことに、後日本当に「やってみますか?」とお話をいただきました。 

 

ーそれが今回、大分でも展示される「風の谷のナウシカ 王蟲の世界」になるわけですね。お披露目されたのは、福岡市博物館での「ジブリの大博覧会」(2019)だったと思いますが、その展示に向けての企画だったのでしょうか? 

 

 そうですね。実は最初、僕は展示スペース全体を腐海にする妄想をしていて、「これはできないだろう」という終わりの見えないラフを描いてしまって(笑)。皆さんにご覧いただくには通路を確保しなきゃいけないし、消防法などのルールもありますから、いろいろと模索しながら実現可能なプランに着地しました。もちろん、ひとりではつくれないので、チームを組んで進めていきました。

最高のチームで制作

ー実物を見て、怖くて泣き出す子どももいるそうですが、リアルな表現をするためどんな工夫をされましたか?

 

 立体物として現出させるためには、現実感、実在感が大事だと思っています。だけれども蟲なら蟲、菌類なら菌類の形をつくる法則に従って「こうあるべき」だと考えすぎず、実在感を追求していきながらも原作のデザインの味を損なわないよう、“宮﨑駿さんワールド”を皆さんの目の前につくり出すことを大切にしていきました。 

 宮﨑さんの蟲は、人間にとって天敵でもあるという設定ですが、やたら「怖い」というよりは「脅威」。何を考えているか分からない、けれど主人公のナウシカがそれを理解しようとするのがストーリーの根幹。畏怖の気持ちですね。「この世にいるのは人間たちばかりではない」という法則を大事にしたいと思いながらつくりました。とはいえあまり思い悩んだりはせず、もともとファンなので、宮﨑さんの世界を立体化するのはただただ楽しいばかりでした。

 ちなみに、初めて展示した福岡では「早くここを出たい!」という感じで泣きながら走り抜けていく子どもがいました(笑)。

 

ー独特な質感を出すために、特別な素材や道具を使っていますか?

 

 菌類だけでも、毛がツンツン生えているもの、透明な玉が繋がっているもの、質感はネバネバ、ツヤツヤ…とさまざま。それが「現実にいるとしたらどうなのか?」を考えて、質感を決めていきました。素材は腐らないものであれば何でも使えます。例えば身近なものだと造花の細かなパーツや、イボイボの(マイクロファイバー)バスマット、ほわほわしたモヘアの毛糸など、利用できる素材は全て利用しました。

 

ー最も難しかったのはどのプロセスですか? 

 

 普段は王蟲のような大きな作品をつくらないので、それを実現すること自体の難易度が高かったです。最初に僕が30〜40センチの雛形をつくり、それをスタッフの皆さんが大きくしてくれるんですね。気軽に楽しく雛形をつくった僕に比べて、高さ3・8×長さ8・5メートルの王蟲が倒れないよう、危険がないよう支えるための鉄柱の溶接方法からその位置、強度計算まで手がけてくれたスタッフのご苦労に恐縮しました。同時に、見たこともない技術を発明のように繰り出すのを見て、「こんな手法もあるのか」と勉強にもなりました。大きな倉庫で制作したのですが、スタッフはプロフェッショナルな方々ばかりで、この素晴らしいチームでやれて本当に良かったと思いました。

 

ーしかも、作品は会場ごとに組み立てているんですよね?

 

 はい。展覧会の都度バラして、移動して組み立てて、またバラす…という作業を延々と、7年くらい続けています。バラして組み立てられる構造をつくるのも大変なことで、チームの皆さんには頭が下がります。

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©Studio Ghibli
「風の谷のナウシカ 王蟲の世界」の制作プロセスは、竹谷さんの著書『腐海創造』で知ることができるので、展覧会の予習や復習に必見!

尽きない「妄想」

ー今後、手がけてみたいジブリ作品はありますか?

 

 つくってみたい妄想は尽きないのですが、ナウシカだったらガンシップの倉庫。塔の中なのか、ランプが点いて、いろんな部品が散乱したところに機体も転がったりしていて、さっきまでミト爺が整備していたかのような作業場の状況など、魅力的です。あとは大好きな『天空の城ラピュタ』のどこか一場面もつくってみたいですね。

 ジブリ作品以外でいちばんつくりたいのは、オリジナルの世界の造形です。最近は仕事が多くて、目先の今週、来月を見るのが精一杯ですが(笑)、将来「あれやっとけば良かった」と後悔したくないので、自分の創作にも集中できる時間を見出したいです。

 

ーまもなく大分展が始まりますが、来場者の方々に「風の谷のナウシカ 王蟲の世界」をどんな気持ちで見ていただきたいですか?

 

 受け取り方はさまざまだと思います。暗がりですから怖いし、「気持ち悪い」という気持ちで帰っていただくのも間違いではありません。それも「伝わった」ということなので。ですがちょっとだけ、「“怖い”の先に何かあるかも」と思いながら見ていただきたいですね。

 特に子どもたちには、10人中1人でも、怖さの中に「わけが分からないけど見てしまう」というような、観察する目が芽生えてくれたらと思います。観察はあらゆるジャンルに繋がっていて、怖いものもいちど観察し始めると興味が尽きないものです。例えば自然界の生物に出会ったとき、色鮮やかな虫を見て美しいと感じる反面、毒があるんじゃないかと思うと怖かったりしますよね。それと同じように、「王蟲の世界」を見た子どもたちが「怖い」と「美しい」は別物ではないという感覚に気づいてくれたら、そして会場を出て現実の自然を観察したときに「面白い」と感じてくれたら…もしそんなことがあるとしたら、とても有意義なことだと思います。あるいは造形を見た子どもがインスパイアされて、「自分もつくってみたい」「絵を描いてみたい」「音楽が浮かんだ」「文章を書いてみよう」…などと思ってくれたら、それもすごく嬉しいことですね。そんな妄想をしながら、つくった作品です。

information

日時
2026年1月17日(土)~3月31日(火)
10:00~19:00
  • 金・土曜は20:00まで(入場は閉館の60分前まで)
  • 本展は「日時指定予約制」です。会場でのチケット販売は行いません。 
会場
大分県立美術館 1階 展示室A
主催
「金曜ロードショーとジブリ展」大分展実行委員会(公益財団法人大分県芸術文化スポーツ振興財団・大分県立美術館、株式会社テレビ大分)

この記事は「びびNAVI vol.113」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。

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