コンクール卒業、そして次のステージへ若きピアニストの新たな挑戦 ベルギー国立管弦楽団 with 亀井聖矢
2019年日本音楽コンクール第1位、2022年ロン=ティボー国際音楽コンクール第1位、2025年エリザベート王妃国際音楽コンクール第5位など国内外で活躍。現在はドイツ・カールスルーエ音楽大学で学びながら演奏活動を行っている。
国内外で注目を集める若手ピアニスト・亀井聖矢さん。
2025年のエリザベート王妃国際音楽コンクール第5位入賞も記憶に新しい中、
この秋、ベルギー国立管弦楽団との共演による日本ツアーが大分から始まります。
公演に向けた思いやブラームス《ピアノ協奏曲第2番》の魅力、
さらに自身の音楽との向き合い方について伺いました。
文/冨松智陽
名門オケとの共演
ー ベルギー国立管弦楽団との共演が決まった時のお気持ちや意気込みを聞かせてください。
昨年、エリザベート王妃国際音楽コンクールで1か月ほどベルギーに滞在しましたが、都会と緑が共存していて人も温かく、すごく素敵な場所でした。そんな街の歴史ある管弦楽団と共演できることは素直に光栄ですし、コンクールの次の段階へ進む今の僕にとって大きな機会。権威あるオーケストラとの共演で、自分がブラームスの2番という大曲をどう表現できるのか、挑戦にもなります。何より今回、ベルギーでの現地公演を経て日本各地を巡るこのツアーは、僕の今秋のメインイベントになるのでベストを尽くしたいです。
ー 指揮者のミッコ・フランク氏にはどんな印象をお持ちですか?
ご活躍されている素晴らしい指揮者だと思います。ベルギー国立管弦楽団からの信頼も厚く、その関係性の中にソリストの僕をどう汲み取っていただけるのか楽しみ。きっと、相性の良い掛け算になるのではないかと期待しています。
ー オケとの共演時、どんなことを意識していますか?
ソロの場合は、自分一人で演奏を構築していかなければなりません。全てが自分にかかるので難しい側面もあるのですが、オーケストラとの共演は、各楽器の音の立ち上げ方や歌い方に呼応して都度アイデアが生まれてくるので楽しいです。「ホルンがそう歌うなら、僕は次のフレーズをこう弾いてみよう」と、他の楽器の音色によって自分の感覚も変わっていきますし、共演するオケや指揮者によっても感じ方は変化します。いろんなインスピレーションを受けて再発見ができるので、僕はコンチェルトがとても好きです。
ー 共演者とどんなふうにコミュニケーションを取っていますか?
いちばん雄弁な言葉は、もう“音”です。どれだけ事前に打ち合わせても95%くらいは肌感で、みんなの感覚が一致したときに聴衆に訴えかける音楽が生まれるのではないかと思います。だからこそ生の空気感を敏感に感じ取りながら弾きたいですし、そのためには自分の表現と解釈に確信を持ってのぞみたいです。
ー ブラームス《ピアノ協奏曲第2番》の魅力は?
ブラームスの作品は全体的に交響曲的で、ソリストに華がありつつも、それがオケと溶け合っていくところが魅力だと思います。2番はそんなブラームスらしい、かつ長大な曲。冒頭のホルンのテーマが作品の中で一貫して現れ、温かなメロディーや魅力的なパッセージなどに姿を変えながら無限に展開していきます。1楽章では穏やかさの中からエネルギーが積み上がっていき、2楽章には音そのものが持つ迫力があり、素直にカッコいい。3楽章の高音域で歌い上げるチェロは僕の大好きな部分で、そこに憂いを帯びたピアノのメロディーが重なり合い、極上の美が現れます。重厚さの中にも繊細さが感じられる4楽章まで、いろんな側面を体験できる傑作です。ちなみにブラームスの曲は、聴けば聴くほど構築度の高さに感心も感動もさせられます。何度も聴いてこそ、感動できる作曲家ですね。
自分の音楽を創りたい
ー 表現力を磨くために心がけていることはありますか?
練習のときに、出したい音色を生むタッチや身体のつくり方を考えます。でも結局どんなテクニックが操れたとしても、僕自身が曲を通して聴き手と共有したい何かを心底感じていてこそ、自然に身体が動き音が生まれるものなので、まずは自分がいちばん曲の魅力を理解することが大事だと思っています。そのためには楽譜を読み込んでさまざまな発見をしたり、素晴らしい演奏を聴いてイメージを広げたり、一方で自然に触れたりもして人生そのものの感受性を高めることも大事かと。自分の中に取り込んだものが感性として熟成され、何らかの形で表現されるはずなので、今回もツアー前にブラームスが過ごした場所を巡り、空気感に触れたいと思っているところです。
ー コンクールでの受賞が続いたこの10年間、音楽観はどのように変化してきましたか?
日本音楽コンクールで1位になった頃から、ピアニストとして生きていく将来がなんとなく見えてきました。大学に通いながら演奏活動もし、ロン=ティボーで1位という結果をいただけた頃は急激にレパートリーを増やして、たくさんの演奏会を経験させてもらいました。それは若いからこそできることだと思う反面、慌ただしい中で作品に深く向き合う時間を取りきれず、ドイツに留学することを決断。コンサートのペースを少し落とし、勉強することに重きを置いてスケジュールを管理するようになっていきました。今年は2つの大きなツアーにそれぞれ半年以上の時間をかけて準備ができ、一つひとつの音やフレーズに対する感情、表現、バランスなどを突き詰めて弾くスタイルを身につけられるようになってきています。今後はこのスタイルを、共演者に刺激を受けながら流動的にリニューアルし続けていける自分でありたいです。
ー この先、挑戦したいことは?
ピアノに限らず、オーケストラやオペラなど多くの芸術作品に触れてもっといろんなことを知り、自分の“今”の技術と感性で紡ぐ新しいレパートリーを増やしていきたいです。もう一つは、過去の巨匠たちの作品から受け取ったものを糧に、自分の作品を生み出してみたい。現代だからこそ共感してもらえるコンチェルトを作曲したいという目標があります。
ー 最後に、大分の皆さんにメッセージをお願いします。
大分には演奏活動の初期からお邪魔しているので、自分のもう一つのホームみたいな感覚。今回は日本で最初の公演地となるので、現地ベルギーの空気感をまとったまま皆さんに演奏をお届けできることを嬉しく思います。予習せずに聴いても楽しめますが、好きな音源を聴いてから来ていただくと僕の表現との比較も感じていただけるはず。ぜひ楽しみにしていてください。
曲目
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ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品83 [ピアノ:亀井聖矢]
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チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
1936年創設。ベルギー・ブリュッセルを本拠地とするベルギーを代表するオーケストラ。世界的な指揮者やソリストとの共演を重ね、国内外で高い評価を得ている。
1979年フィンランド生まれ。17歳で指揮者デビュー。ベルギー国立管弦楽団の元音楽監督で、世界の主要オーケストラで活躍する指揮者。
information
指揮:ミッコ・フランク
ピアノ:亀井聖矢
B席 8,000円/C席 6,000円
U25割/A席 5,000円 B席 4,000円 C席 3,000円
この記事は「びびNAVI vol.117」で掲載された記事です。
五感の翼が広がる総合ガイド誌「びびNAVI」は、iichiko総合文化センター及び大分県立美術館の館内ほか、県内や隣県の公立文化施設などで配布中。